乳がんの抗がん剤治療 その1
乳がんの患者に抗がん剤治療を行う場合には、どんな点に気をつけなければならないでしょうか?
それは、抗がん剤の効果と副作用の双方をきちんと検討する必要があると言えます。
乳がんに対して抗がん剤治療という化学療法は、とても有効な治療法ですから、効果と副作用をきちんと理解し、治療に入りたいものです。
抗がん剤は、乳がんのがん細胞が増えることを抑えます。
また、がん細胞を死滅させ、乳がんの治療を行います。
この時、抗がん剤は正常な細胞にも、同じくダメージを与えてしまうため、それが副作用という形で症状が出ます。
ですが、現在では、この副作用を減らす薬剤が開発されていますので、昔よりも、抗がん剤治療の環境が整ったと言えるでしょう。
その点でも、抗がん剤治療はかつてのものより、安心かもしれません。
抗がん剤には日本で許可されている薬で数十種類あります。
その中から単独で選び出し投与するわけではありません。
複数を組み合わせての多剤療法が一般的です。
多剤療法というのは、複数の薬剤を使うことによって副作用を減らすことが出来き、症状が改善される効果があります。
お話したように、抗がん剤はがん細胞と正常細胞を攻撃してしまい、ダメージを与えます。
ですが、その後は正常な細胞の方が、がん細胞より早く回復するのです。
ですから、乳がんだけなく他の抗がん剤治療もそうですが、抗がん剤の投与に間を空けることがポイントになります。
投与間隔を空け、正常細胞の回復を待ちつつ、まだがん細胞にはダメージを受けた状態で、次の抗がん剤を投与し、がん細胞を攻撃するという治療法です。
抗がん剤治療にはタオル帽子を!
抗がん剤治療の副作用で起きてしまう症状にはいろいろありますが、脱毛で悩んでいるがん患者さんも多いでしょう。
特に女性にとってはこの副作用はとてもつらいものです。
盛岡市に「岩手ホスピスの会」というものがあります。
その事務局長である八戸市の吉島さんが考案した帽子、「タオル帽子」の情報が全国に広がっているそうです。
もともとはご自分ががん患者だった経験がある吉島さんは、この1年で800人以上の型紙を作って送ってあげたと言います。
これが一枚ずつ手作りという点ですが、思いを伝えるのには手作りが一番と、患者の家族、知人にこのタオル帽子作りを勧めておられるそうです。
では、タオル帽子は具体的にどんなものでしょうか?
これは、タオルを型紙通りに切り取り、そして縫い合わせるだけで帽子が作れるというアイデア帽子なのです。
ですが、簡単というだけではなく、タオルを使ったという点は、患者のことを考慮してのこと。
実は抗がん剤治療中の患者は副作用により、体温が上昇しとても汗をかく、「ホットフラッシュ」という症状が出ることがあります。
この状態になったとしてもタオル帽子なら、汗を吸い取りやすいし、肌触りも良いのです。
脱毛は気になっても、高価なウィッグに手が出ない患者や、帽子では汗を吸い取らず困っていた患者などに喜ばれています。
会のホームページ上でも作り方が載っていますし、講習会もあります。
抗がん剤治療中の患者さんに喜ばれていると言う、機能的、そして経済的であり、気持ちがこもっているタオル帽子のお話でした。
抗がん剤TS-1のメカニズム
先ほどもお話したように、1999年から使われている大鵬薬品工業株式会社の抗がん剤、「TS-1」は経口抗がん剤(服用できる薬)として、抗がん剤治療では一般的な薬剤です。
この薬はがん細胞を攻撃し、また副作用を少なくするよう考えて開発された薬です。
ちょっと難しいとは思いますが、この抗がん剤TS-1のメカニズムを簡単にお話しましょう。
まず、TS-1の中の成分、テガフールが肝臓において5-FUに変化します。
そしてそれを血中に放出させます。
また他の成分、ギメラシルが、その放出した5-FUが分解することを妨げ、血中濃度を上昇させることで、がん細胞を攻撃する力を発揮させます。
TS-1のもう1つの成分、オテラシルカリウムが、がん細胞を攻撃する5-FUが同時に起こしてしまう副作用としての嘔吐や悪心、下痢、または食欲不振などの、主に消化器の症状を軽くします。
こうしてがん細胞を攻撃する力を持ちながら、その副作用を軽くすることで、患者が長い期間、この薬を飲み続けられるように開発したものです。
今でも、患者さんの体の負担を少しでも軽減するため、新しい薬の研究、開発は日々、進化しているのでしょうね。
抗がん剤TS-1は、どのタイプのがんの抗がん剤治療に使われているでしょうか?
それは、頭頸部がんを始め、非小細胞肺がん、また、胃がん、結腸がん、直腸がんの抗がん剤治療に使われています。
それに手術不能の乳がんや、再発した乳がん、膵がん、胆道がんの抗がん剤治療にも使われており、今後も更に適応するがんが増えると期待されています。
抗がん剤TS1とは? その2
先ほど、抗がん剤TS1が幅広く抗がん剤治療に使われている薬剤だとお話しました。
臨床試験の結果でもTS1の効果が期待できる数字が出ています。
では、TS1の副作用にはどんな症状があるのでしょうか?
それは他の抗がん剤と同じように悪心や、嘔吐、吐き気、食欲不振などがあります。
また消化器症状、口内炎、そして下痢などの症状も副作用としてあげられます。
TS1の成分である5-FUが、がん細胞を攻撃する際、同様に骨髄にダメージを与えてしまうこともあります。
その結果、白血球、赤血球、そして血小板が減少してしまいます。
これらが減少することによって、貧血症状が起きたり、出血したり、または感染症の恐れが出てきてしまうのです。
TS1だけではなく、どうしても抗がん剤治療には副作用が付きまとってしまいますが、もし耐えられないほど苦しいのであれば、遠慮せずに担当医にその旨を伝えたほうが良いでしょう。
薬剤の量や組み合わせなどで副作用は変わってきます。
症状によって投与する抗がん剤の種類や量を変えてもらいましょう。
ところでTS1は一体どれくらい前から抗がん剤治療に使われているのでしょうか?
1999年から大鵬薬品工業株式会社が抗がん剤「TS-1」という薬剤を販売しています。
これは経口抗がん剤として幅広く使われています。
このTS-1の主要成分は何かと言うと、オテラシルカリウム、テガフール、そしてギメラシルの3剤です。
5-FUががん細胞を攻撃する効果を活かしつつ、同時に副作用を軽くすることを目的として開発された抗がん剤と言えるでしょう。
抗がん剤TS1とは? その1
抗がん剤治療に使われる「TS1」という薬剤があります。
この抗がん剤は国内での臨床試験の結果、進行性の胃がんや直腸がん、結腸がん、または頭頸部がん、そして非小細胞肺がんに対して第一の選択薬とされていて一般的に広く使われている薬剤です。
このTS1の効果的な抗がん剤治療を受ける為に、その効果や、臨床実験の成果、または薬の副作用についても事前に知っておくべきでしょう。
日本で開発されたTS1という抗がん剤は、一般に5-FUと呼ばれている「5-フルオロフラシル」を基にしています。
その成分の効果を高めつつ、更に副作用を減らせた経口抗がん剤なのです。
国内における、数々の臨床試験の結果として次のようなものが挙げられています。
進行性胃がん、再発した胃がんに対しては、抗がん剤、TS1だけを投与した結果、およそ47パーセントの患者に、がんが縮小した成果が見られました。
同じく直腸がん、結腸がんではおよそ33パーセントです。
頭頸部がんではおよそ34パーセントの効果が確認できました。
また、更に、今まで抗がん剤治療をしていなかった非小細胞肺がん患者のケースですが、TS1とシスプラチン、双方を投与した結果、48パーセントの患者に、がんが縮小した成果が見られました。
これはTS1の単独での投与よりも、更に効果があることを示しています。
以上のことから、抗がん剤、TS1は幅広く安心して使われる薬剤であり、効果も期待できることがわかりますし、臨床実験での成果の数字を見ると、更に抗がん剤治療に効果に希望が持てることでしょう。
抗がん剤治療中の食事
抗がん剤治療中の方で吐き気が続く患者さんも多いようです。
体力をつけて病気と闘ってもらうためには食事はとても大切です。
こうした嘔吐の症状の際にはどのような料理が良いでしょうか?
それは匂いによって、食べたくない、気持ち悪い、などと食欲がなくなる人が多いですからそこを工夫してあげることです。
嘔気を起こさせる匂いと、食欲をわかせる匂いがあるようです。
では嘔気を起こさせる匂いには、どんなものがあるでしょうか?
代表的なものとして、「お砂糖とお醤油で味付けした煮物料理」また「肉類や魚類の独自の匂い」などと言われています。
こうした吐き気がある場合には、逆に食欲を出す匂いとはどんなものでしょう?
それはゆず、レモンなどの酸っぱい、柑橘系の香りでしょう。
そこで抗がん剤治療で吐き気などの副作用がある方へのお勧めの献立です。
まずは、煮物はやめましょう。
そして、酢の物、水分の多いフルーツ、汁物、生野菜やサラダなどいかがでしょうか。
本来、摂取すべき肉、魚などの、タンパク源が不足してしまいますので、タンパク源を取るために汁物やサラダに豆腐、卵を使うようにしたら良いでしょう。
チラシ寿司、炊き込みご飯、麺類など、主食に味が付いているものも好まれるようです。
また主食のご飯や麺を組み合わせて2種類を用意することで、患者さんがその時の気分で食べたいと思う主食を選ぶことが出来ますよね。
これですと患者さんの気持ちも楽になるようです。
治療中の本人も食べなきゃ!と思っているはずですから。
嘔気がある場合の食事は、こうして匂いのことを考えて支度をしてあげると良いですね。
抗がん剤は正常細胞も攻撃する?
今までお話してきたように、抗がん剤治療は、細胞分裂が早いスピードで行われている細胞を攻撃し、死滅させること治療です。
そして残念ながら、がん細胞と正常な細胞とは、その構造がとても似ていて、双方を区別することが出来ません。
ですから、抗がん剤という薬剤はがん細胞と一緒に、少なからず正常な細胞も攻撃してしまいます。
そして、細胞分裂がさかんな組織がよりダメージを受けます。
それが副作用となって症状に現れるのです。
では、細胞分裂がさかんな組織であり、抗がん剤によって攻撃されてしまう部分は体のどこになるでしょうか?
それは、胃、腸などの消化器です。
特に粘膜がそうです。
消化器系の粘膜が攻撃され、弱ってくると、症状としては吐き気や嘔吐となって現れます。
そして更には食欲不振になったり、口内炎が出来たり、下痢をしたり、便秘になったりします。
また味覚異常を起こすこともあります。
そして骨髄もダメージを受けやすい部分と言われています。
これが攻撃されると血液の中に含まれる白血球、血小板の数が減ってしまうのです。
また、毛根細胞も分裂が活発ですから、これが攻撃されると脱毛になったりします。
こうして抗がん剤によって、攻撃を受けやすい組織が阻害され、結果、副作用となって症状が出てきます。
副作用はコントロールしながら、上手に抗がん剤治療を続けることが大切です。
副作用だけでなく、効果ときちんと出るようなら、なおさら副作用と上手く付き合って行かなければなりません。
薬害イレッサ訴訟 続き
薬害イレッサ訴訟の続きです。
海外ではこの抗がん剤治療の薬剤、イレッサについてどのような対処をしていたのでしょうか?
米国FDA、食品医薬品局は2005年にこのイレッサを新規の患者へ使用を禁止しました。
EUでも2005年には製薬会社が申請を取り下げました。
海外ではこのような動きがあったのにも関わらず日本では被害者が続いて出てしまったのです。
被告となった製薬会社と国の言い分はこうです。
「イレッサが実際に効いている患者がいる事実がある。これは効果があったことを示すことである。」
もちろん、原告側の主張とまったく違っています。
薬害エイズもそうですが、薬害肝炎、薬害イレッサとこうした事件は続いています。
いずれの事件も同じですが、厚労省、製薬会社、双方は被害があることを知っていながら、新薬を承認してしまいました。
そして、販売させ、被害を拡大し続けた責任があります。
このような事件が起きてしまうと、抗がん剤治療を受けることは、とても勇気が要ることに思えます。
現在、抗がん剤を製造している製薬会社は、日本には沢山あるでしょう。
日本は世界一、抗がん剤の種類が多い国だと誇れますが、こうした薬害問題も現実には起こっているのです。
製薬会社は常に研究と開発に力を入れていますので、毎年のように新薬が出てきます。
これはすばらしいことですが、こうした薬害被害の事実も後を絶たないのであれば、人間の命を救うための薬を開発したのにもかかわらず、結果、人間を殺してしまうことになり兼ねません。
薬害イレッサ訴訟
以前、抗がん剤治療に関してこんな事件がありました。
2002年、イレッサという抗がん剤には重い副作用があることをわかっていながら、国はこれを承認しました。
イレッサの販売を続けたことが、被害を拡大させてしまったのです。
副作用で苦しむ患者たち、またすでにこのイレッサの副作用で死亡した患者の遺族たちが、アストラゼネカという製薬会社と国を相手に損害賠償を求めていました。
これを「薬害イレッサ訴訟」と言います。
製薬会社である、大阪のアストラゼネカが販売していた抗がん剤、イレッサは、2002年に発売されました。
発売当時は、副作用が少なくて手軽に自宅で使える新薬と話題を呼びました。
これを待っていた患者さんたちもいたでしょう。
ですが、発売から、わずか2ヶ月後のことです。
イレッサによる抗がん剤治療をしていた26人が副作用と思われる間質性肺炎等を発症しました。
そして残念なことに、その中で13人が死亡してしまったのです。
その後も続けて、副作用を発症した人は急増しました。
2008年3月までには1916人が発症して、その中の734人が死亡したということです。
この抗がん剤、イレッサが厚労省から承認されたのは2002年7月です。
申請してから、なんと半年後に承認されたという、スピード承認でした。
原告弁護団によると、承認された時、製薬会社側は、動物実験によって重い副作用があることをすでに知っていたと言います。
実は海外、日本国内で人間も死亡した臨床ではない例もあったそうです。
抗がん剤が「効く」とは治ること?
抗がん剤治療を行う場合に使われる言葉で少し気になることがあります。
それは、この抗がん剤は「効果がある」または、この抗がん剤は「効く」と言いますが、これは具体的には完治するということなのでしょうか?
例えば、薬局の店頭で薬を購入するときに「頭痛に効く薬を下さい」と言って、お店の人にお勧めの薬を出してもらいます。
この場合の「頭痛に効く」とは頭痛が治るという意味で使っています。
このように「薬が効く」という言葉は、世間一般では病気が治る意味で使われています。
ですが、抗がん剤治療においては、これはちょっと違ってくるのです。
あるケースとして、肺がんの患者に抗がん剤のイレッサを投与したとしましょう。
肺がんの場合、CT画像診断などで、がん細胞が以前撮影時より半分に以上、小さくなっていた場合は抗がん剤の効果があった、薬が効いたと判断するのです。
がん細胞の縮小が見られた期間が、単なる一時的なものであったとしても、薬が効いたことになります。
もちろん、その後に、またがんが進行して、拡大してしまい、半分になったものが、また元の大きさまで戻ってしまっても、一度小さくなったのですから、これは抗がん剤の効果があったということになります。
結果、抗がん剤治療での「効果がある」という言葉、完治するという意味ではなくなりますね。
ですから、抗がん剤が効くということは、「延命が出来た」または「がんが小さくなった」という意味で使われていることになります。
もちろん、抗がん剤治療でがんが完治するケースも多数ありますので、誤解なさらないようにして下さい。